↑一応全部角川文庫の山田風太郎。
一番手前が、今回買った「夜よりほかに聴くものもなし」。表紙は田島昭宇。個人的にはこの表紙はとても好きだが、自分の中の八坂刑事はもうちょっと太ってる(なぜといわれても困る)。
真ん中は、旦那が、漫画版(土山しげる)を読んだときに「この絵のほうがいい!」と言った、「忍法剣士伝」の表紙。絵は佐伯俊男。
一番奥も、表紙を描いているのは同じく佐伯俊男なんですが、本が古くて昭和58年初版(!)の「忍びの卍」。これは実家の父から借りっぱなしのもの。この絵のおかげで、「バジリスク」を読むまで山田風太郎は怪奇小説を書いていると思ってた自分です。小さい頃は表紙見るのも怖かったんだよ…。
というわけで、「夜よりほかに聴くものもなし」読了。
なんでいきなり読み出したかというと、以前「恐怖劇場アンバランス」で見たドラマの原作「黒幕」は、この中の一作だからです。ずっと気になってたのですが、旦那は原作本をすでに手放してたもんで。
本屋行ったら新装版で出てたんで、買ってみました。
初老の八坂刑事が遭遇したさまざまな事件とその犯人、最後は必ずお決まりのセリフで終わる、連作推理?小説です。
なんで?をつけるかというと、トリックとかアリバイとか、そういうことがこのシリーズの主眼ではないから推理ものと言っていいのか悩むところだからです。
メインは、「どんな動機か」だと思われ。
旦那から「重いよ」と言われてましたが、確かに重い。
犯罪に手を染めてしまった人間の、「ええ?!」ってな理由。色々書くとネタバレになってしまうので詳しく書けないんですが、思いがけず、なんというか、やりきれないというか。
まずは、ドラマと原作を比較しての感想。
…なんで、ラストを原作どおりにしてくれなかったんだ。
…いや、あれはあれで、もしかしたらよかったのかもしれない。
最後のあの血を吐くような長いセリフを、ドラマではあんなにコンパクトにしたのだから。
(原作の方は、確かにこれはすごくいいんですが、ちょっとセリフ長いかなあ、とちょっと思ってたので)
でもあのラストは…いや、やっぱりあれだな、原作の方がいい。
てか、どっちにしても、この人ほどひどい経験は自分にはないけど、似たような経験がないこともないので、共感せずにはいられないのは同じです。
そして、「アンバランス」のときも書いたけど、これ今ドラマかなんかでやったら結構いいと思う。
そのくらい、シャレにならない話満載です。
いや、時代は結構前…ええと、八坂刑事が生まれる少し前に「大逆事件(明治43年)」がおきてて、B・G(ビジネスガールの略。今で言うOLみたいな感じ)なんて言葉が普通に出ていて、オート三輪が走ってて、R・A・A(ええとこれ自分も知らんかったので、作中の説明によると、特殊慰安施設、終戦直後に政府が作らせた進駐軍用の売春施設のことらしいです)を20代の若い刑事が知らない、という時代。
雑誌連載が1962年から、とのことなんで、それくらいか、それよりちょっと前くらい、かな?
でも、今でもほぼそのままドラマに出来そうな話満載です…あ、↑の時代背景説明だけでもお察しするかとおもうけど、ちょっと出せない話もある(苦笑)。
「無関係」での、事故を起こした国鉄職員の家族に対する世間や近所の態度とか。
「ある組織」の、まさに「ある組織」っぷりとか。
「敵討ち」の、仇の討ち方とか。
もちろん「黒幕」も、あの動機とか。
なんていうかね、本当にシャレにならない。
だって、今だってそうじゃない、ていう。全然変わってないじゃん、ていう。
そういうのビシバシ感じながら読んだ。
自分は重い話苦手だけど、本当にあっという間に読んだ。
これってあれかな。落ち込んだときに悲しい曲聴く、みたいな感じなんだろうか。
作品の舞台は東京。
なんなら、今の東京を舞台にしてもできそう。
したらそのときも、八坂刑事はあのセリフをいってくれるのだろうか。
「それでも…」
重い意味をふくんだ『それでも』だった。
「おれは君に、手錠をかけなければならん」