…名言というと人生を左右はしないけど、クイーンの作品が頭に浮かびます。
というわけでクイーンの話から。
その語り口も好きなエラリー・クイーンのミステリに出てくるトマス・ヴェリー部長刑事。
圧倒的にしょうもないセリフが多いですが、なんか小気味いいというか。実際に口に出して上手くいえたら気持ち良さそうな。
だから、なんか印象に残ったセリフとなるとこんなのが出てくる。
石炭すくい! 暖炉たき! もうほかにやるこたあありませんか? 見て下さいよ、このわたしのざま! うちのかみさん、卒倒しますぜ。
「シャーロック・ホームズの災難(上)」エラリイ・クイーン編(早川ミステリ文庫)
…のなかの「ジェイムズ・フィリモア氏の失踪」p199
内容的には、ありがちなギャグ部分ですが、軽く啖呵切ってるみたいな感じがとても好きです。
部長さん関連で、いまのところNo.1はこちら。
(野球観戦中、元メジャーリーグ投手ビル・ツリーが死んだ。部長刑事は試合に夢中のエラリーを事件に引っ張り出そうとする。いきなりエラリーはイスによじ登って札束振り回し、ビル・ツリーが先ほど書いたサインを求めだす。6人もらってるはずが一人どうしても出てこないのを残念がるエラリーに)
「あなたみたいな人を野放しにするってのは、社会にとっちゃ思いきった賭けですよ。時々そんな気がしますね」
「世界の名探偵コレクション10 エラリー・クイーン」集英社文庫
…の、「人間が犬を噛む」p181~182
これ、創元推理文庫ではちょっと翻訳のニュアンスが違います。なので翻訳によるところかなり大きいですが、理由も言わずに突発的に行動するエラリー、でもこんなセリフで済ます部長さんが好きです。
ちなみに、この記事のタイトル、これも部長さんのセリフから。
本当はちょっと長いです。こんな感じ。
(ニューヨークを恐怖のどん底に落としている連続絞殺魔<猫>。捜査にいきづまってるエラリーと、偶然会った部長さんが歩きながら話している中で)
「私はとっくにあきらめました」部長刑事は言った。「これはトマス・ヴェリー個人の考えですがね――この回転木馬に乗ってどこかへ達しようなんてことはあきらめたんです。私の考えでは、<猫>がやっつけられるとすれば、ひょんなことからだと思います。新米の警官が、体をまげて小問物屋をひろげているらしい酔っぱらいに近づいてみると、何とそれが新しい犠牲者の首にひもを巻きつけている<猫>だった、といった具合です。しかし、それでも」部長刑事は言った。
「推理を続けずにはいられないわけですね」
「うん」エラリイは言った。「その通りだ」
「九尾の猫」エラリイ・クイーン(早川ミステリ文庫)p142
…そしてこのシーンの後、へんてこりんな部長さんの珍説が披露されて苦笑のシーンに突入するのでした(苦笑)。
エラリーの理解者としては、まっさきに父親のクイーン警視があげられますが、部長刑事さんも警視とは別の形でエラリーを理解し受け入れてたように思えます。この傾向はエラリーを大先生と呼びはじめることと関連は…とすると長いので、それはまた別の機会に(するのかその話を)。
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実際に人生にちょっと左右とかいうことになると、こちら。
こちらも何度もブログに書いてる、マーサ・グライムズのパブ・シリーズに出てくる、限りなく主役に近い脇役・ブライアン・マキャルヴィ本部長。
(殺された女性のことを語って)
「あの女はまだ三十だった。せめて五十か六十まで生きたなら、物事を解明する機会があったろう。かならずそれができるとはかぎらないが、少なくともそのチャンスはあった。やれるだけのことはやれたんだ」
マーサ・グライムズ「「レインボウズ・エンド」亭の大いなる幻影」p74
今はどうにもならなくても、いつかどうにかなるかもしれない。少なくともそのチャンスはある…本当だろうか。
でも、ガックリきてるときに、実際によく思い出すのです。
あと、なぜか時々思い出しては頭から離れないのがこちら。セリフではないですが。
(仕事さえ出来れば寛容らしいが、全く持ってそんな風に見えない本部長について)
いったいどうして人が彼と一緒に仕事がしにくいのか、彼には理解できなかった(ということはつまり、そんなことはどうでもいいと思っていた)。
マーサ・グライムズ「「古き沈黙」亭のさても面妖」p51
この「そんなことはどうでもいいと思っていた」が、人とうまく話せないときや仲良くできないときとかに、ふっと浮かんで、なんか不安になるのです。
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ここまで書いておいてなんですが、たぶん自分にとって「名言」と「名シーン」は別物であって、言葉そのものだけでなく、その場面として好き、となる「シーン」になりやすい漫画より小説に名言が多くなるのでは、と思います。
ここまで読んでくださりありがとうございます。なにか間違いなどありましたら、お教えくださると嬉しいです。