腰痛い。
こんにちは三月です。
…座ってる時間が長いせいでしょうかね、お世辞にも座る姿勢が良いとは言えない私ですし。まあ痛い。
このご時世なので病院にも行きづらく、なんとかシップで直んないかなーって感じです。
さて。
某アカウントでつぶやきはしたんですが、もう少し詰めておこうかなと。
久しぶりにグライムズ記事です。
Eテレの番組に「グレーテルのかまど」というのがあります。
ざっくりいうと、物語とかに登場する料理を実際に作ってみる番組なんですが、録画しといた「朝吹真紀子のスコーン」回(去年の再放送らしい)の中で、気になることが出てきまして。
スコーンにつけるのは、ジャムが先か、クリームが先か?
それで、イギリスのデヴォン州ではクリームが先・その上にジャム、コーンウォール州ではジャムが先・その上にクリーム…という風に、地域で違うとのこと。ほおほお。
…となると、デヴォン・コーンウォール方面本部長マキャルヴィ主任警視は、どっちを先に載せて食べてるんでしょうか?
その疑問にとりつかれ、偶然スタミナもあった(まだ腰いわしてなかった)ため、速攻でパブシリーズを確認したところ…本部長、スコーン食ってるシーンがそもそもない!
ていうか、あんまりお茶のんでない! 酒のみすぎだろ仕事中だぞきみたち!(今更)
なので、マキャルヴィ本部長がスコーンにのせるジャムとクリーム問題は、残念ながら(少なくとも)翻訳分からは未解決決定となりまして。
ですが、取り急ぎルーズリーフに本部長の飲食場面を書き出していったところ、別のところに気が付きまして。
それが「ガム」です。
マキャルヴィ本部長がガムをかむのは、ただの嗜好ではないようなのです。
ジュリーはやっとそれが、彼が何かに心を乱されているとき、わけがあってその何かを外に出すまいとしているとき、見せるしぐさであると気づきはじめていた。
「『レインボウズ・エンド』亭の大いなる幻影」p191
本部長の飲食物を探したところ、どうも出演作1作につき最低1回は「ガム」が出てきます。
さて、本部長がガムをかむシーン、本当に「何かに心を乱されて」いて「その何かを外に出すまいとしている」とき、なんでしょうか。
というわけで、気づいた限りのガムかみシーンを並べてみます!
引用部分の後につけてるのは、小題の翻訳本のページ数です。全部文春文庫です。
気を付けてみたものの、抜けがないとは言い切れません。
ここに偶然たどりつけたパブシリーズガチ勢の方、見落とし等の不備ありましたら是非ご教授ください。
では行ってみましょう! 長いから覚悟してくれ!
☆☆☆
・「『悶える者を救え』亭の復讐」マキャルヴィ本部長初登場回です。
ガム初登場はこちら。
マキャルヴィは絵はがきのラックを回し、自分たちが今いる三叉路の写真を抜き取った。そして、ガムを一枚口に放りこんで言った。「あんたは気持ちのやさしい人種なんだ」(p106)
ここだけだと、なんだかわかりませんね。
ですがここ、殺された少女の第一発見者で謎の女性モリー・シンガーに出会い、怒らせて料理を膝にぶちまけられた後で、モリー・シンガーはかつての未解決事件で本部長にとって忘れられない少女メアリ・マルヴァニーだとジュリーに言う前です。重要なシーンに挟まれてるところなんですね。
んで、ジュリー警視に↑のセリフを、本人曰くマジメに言ってるわけです。
未読の方にネタバレなしで説明するのが難しいところではありますが(実際、ガムに注目しなければ気にしたこともなかった)心乱されてて何かを抑えながらこれを言っている、と想像すると、なかなか印象的ではあります。まあ、この時点では「ガムで何かを抑えてる」なんて話は出てきませんがが、全部読んで改めて考えると、そう読めなくもないですね。
同書でもうひとつのガム場面がこちら。
「あたしのことは”ジェシカ”って呼んでくれればいいわ」ジェシカはせいいっぱいおうように言った。
「そう、それはありがとう」マキャルヴィはガムの包みを出し、一つ口に放りこんで、ぎろりとジェシカをにらんだ。
「あたしにも一つくれない?」
マキャルヴィがガムをジェシカに渡すのに、不作法に投げたりしなかったのを見て、ジュリーは安心した。
二人はもぐもぐとガムをかみながら、じっと互いに探りあっていた。(p148~149)
ここは比較的わかりやすいですかね。
突然いなくなった叔父さまを探してほしくて事件をでっち上げた少女ジェシカを尋問する場面です。駆け付けた本部長が怒ってるピリピリした場面ですが、ガムを投げて渡さないあたりに、ジュリー警視じゃないけどホッとしますね。
ところでこの場面は「一つ」という書き方をしてて、先ほどの「一枚」と書き方が違います。さっきは板ガムで、この場面は粒ガムなんでしょうか。使い分けてるんでしょうか。
あ、ちなみにここだけ色もわかってて、少なくともかんだ状態だと「ピンクのかたまり」(p150)らしいです。
さて次!
・「『独り残った先駆け馬丁』亭の密会」本部長登場シーンでいきなり出てきます。
(略)「もうこうやって十五分も立ってるんですよ。わたしが今ここでブローニーを使ったら、主任警視の舞台装置と、気分と、証拠をだめにしちゃうんですか」部長刑事はカメラを持ち上げた。
マキャルヴィはガムを噛みつづけた。「ああ、いいだろう。やってくれ。どっちみち今きみがだめにしちまったんだから」(p19)
(中略)
スウェイト部長刑事とドクターの違うところは、部長刑事の仕事ぶりをマキャルヴィが信用している、ということだった。彼は表情を変えることなく、そのままゆっくりガムを噛みつづけた。「おれがあんたの仕事の邪魔をしてるってのかい」(p20)
殺人現場・夜明けちかく・寒い中、ずーーーーーーっと15分、現場を黙って見ている本部長と、それにイライラしている捜査班の皆さんの場面。どっちかというと我慢してるのは部下の皆様に見えます(苦笑)が、本部長も本部長なりに忍耐の場面だったようで。
ここではガムを口に入れる場面は書かれてなくて、いきなり噛みつづけてます。
さてもう一つのガム場面はこちら。
マキャルヴィはガムの包みを開けていた。「おれが送っていこう」と彼は言った。
「あなたが?」
「ああ。途中でキャンディかアイスクリームでも買おう。何がいい、お前たち」
ジミーはチョコレート・フレークが好きなんだ、とコリーは言った。ジミーは何の反応もしなかった。(p198)
ガムは出てるけど噛んでません。重要な目撃証言(だけどなんのことかわからない)をしにきた子供たちが帰るときに取り出しているのです。あげてる場面は書かれてないですが、自分が食うためだけに出したとは思い難い。前作でもジェシカにあげてましたし。
…「『悶える者を救え」亭」での未解決事件で、本部長の部屋でブチ切れたメアリ・マルヴァニーに、彼がどうリアクションしたかは書かれてないんですが、たぶんあの時はガムなんか持ってなかったんでしょうね。そんなことも妄想しつつ。
はい次!
・「『古き沈黙』亭のさても面妖」長すg…いやなんでもないです。
なので自信ないんですが、たぶんここだけです。
(略)マキャルヴィはいつものように、室内でも決して脱ぐことのないレインコートを後ろに押しやって両手をズボンのポケットにつっこみ、ギリー・スウェイトの早口とほとんど同じくらいのテンポでガムを噛んでいた。(p257)
(中略)
マキャルヴィはガムを噛みながら立っていた。ギリーは答えなかった。「(以下略)(p260)
本編とは別の事件について、どこかに必ず犯人の指紋があるはずだという本部長と、どこにもないという部長刑事の対決シーンです。前半はその冒頭、中略後はギリーがコテンパンにされた後です。
本編に直接関係ない(全く関係なくもない)事件なんですが、ここはいいですぞ。そこに気が付く本部長マジやべえ、ってなります。現代だとわかりにくいかもしれませんが、当時読んでも盲点だったから今の若い人が読んでもきっと大丈夫です。
心があるのか見るためいじめてる(ひどい)らしいので、決して感情のままにいじわるしてるわけじゃない、ということは、ガムの理由が書かれてなくても察することができます。
ちなみに本部長はレインコートも深淵な問題なんですが、今回は割愛。気が向いたらやります。
ついでに言うと、本編p603で、本部長が初めてお茶を飲んでる場面があります(マキャルヴィは立ち上がってお茶を飲み干した。(p603))。解決編の部分なので詳細を話しにくいんですが、お茶のお供は「作り置きのまずそうなサンドイッチ(p597)」だし、一気飲みできるくらいなので、お茶の方も察してくれって感じではあります。ウィギンズ部長刑事にフィッシャーマンズ・フレンドをねだった後の一気飲みなので、スースーしたお茶になったかもですね。
「『乗ってきた馬」亭の再会」にも本部長出てはいますが、電話越しのみの出演です。部下を怒鳴り散らしてはいますが、ガムを噛んでるという描写はありません。
んじゃ次!
・「『レインボウズ・エンド』亭の大いなる幻影」
長すg…いえなんでもないです。
先に書いたように、この作品ではじめてガムの意味が出てきますが、まずは順に追っていきましょう。今回は多いよ!
手帳を持ってないほうの手でマキャルヴィはガムを二つ折りにして口に放りこみ、話を続けた。「(以下略) (p53)
二年ぶりにジュリー警視と会ったというのに、挨拶もそこそこに事件の話をしている場面の一部で、この一文の前も後も事件の話です。ずーっとノートを見ながら話してるんですが、ジュリーの見立てとしては情報ではなく「何かほかのこと(p52)」を探してるよう。で、さきの一文の前に「指をしおりの代わりに今めくっていた手帳の間にはさん(p52)」で、さきの一文の後に「さっき何か探していた手帳を開いて読んだ(p53)」。なので、そのあたりのことかもしれないし、全く乗り気じゃないジュリー警視に対してのことかもしれないし、ほかの事かもしれない。正直よくわからない。
…ていうかこの話自体、無関係としか思えん殺人が実は関係あるのでは(証拠はない。本部長がそう主張してるだけ)っていう、マジで虹を追っかけてるみたいな展開+メイン登場人物がとにかく沈みがち・モヤモヤしがち+ひたすら長い、というファンへの試練のような一冊なので、そこまでして読み解くのもしんどいな…と(苦笑)。
でも頑張って続いてのガム場面です。
「わかりましたよ、じゃあ、厳密な事実の詳細を話しましょう。しかし、いいですか、わたしは現場にかけつけた最初の人間じゃあありませんからね。画廊には大勢の人がいたんです」
「ということはその連中がすべてを踏みにじったということか」マキャルヴィはうんざりした顔をしてもう一個のガムを口に入れた。だれかが殺されるとどうして世間は大騒ぎするのか。(p62)
もう一つの殺人現場オールド・セーラムの中世の城で、ジュリー警視がテート・ギャラリーで遭遇した殺人事件について話してるところです。そりゃ殺されたら騒ぐでしょうと思うけど、それはさておき。この辺のガム噛み理由は比較的わかりやすい感じでしょうかね。
それにしても、ずっとそうなんですが。原典がどういう表記なのかはわかりませんが、「一枚」なのか「一個」なのか、統一できない理由がなんかあるんでしょうかね…板ガムなのか粒ガムなのか、わかりゃしない。それともマジで二種類持ち歩いてんのかしら。
ともあれ、次のガム噛み場面です。
ジュリーは詩の一節のようなその言葉に顔をほころばせたが、一方では、現在そうであるとも、過去になってしまったともとれるその話し方に少しショックを受けた。まるで、アニーがもういなくなってしまったというようにも聞こえた。かれはマキャルヴィがゆっくりとガムを二つに折って口に入れるのを見た。マキャルヴィはヴァイの言ったことと、ガーディーの言ったことをかみしめているように見えた。(p189)
ヴァイとガーディーへの聞き込み終わりに、この場にいないアニーのことを紹介されたあとの場面です。ここは普通にジュリー警視の見立てのままでしょうかね。進まぬ事件に新たな証言者ですが、なにか事情がある方のよう。ジュリーたちも、少なくとも喜んでるようには見えません。
速攻で話を聞きに行った先で起きたのが、記事の最初の方で引用したあの場面です。ちょっと前の方から引用してみましょうか。
「母さん……いつまでもそんなに……」
「お茶くらい……」その声は懇願調になっていた。
「飲まないよ、お茶なんか。わからないのかい? おれの人生なんだ……」
へんだな、とジュリーは思った。いま問題なのは彼女の人生ではないのか。彼はマキャルヴィがじっと考えに沈みながらもう一枚のガムを折り畳んで口に入れるのを見ていた。ジュリーはやっとそれが、彼が何かに心を乱されているとき、わけがあってその何かを外に出すまいとしているとき、見せるしぐさであると気づきはじめていた。(p191)
なにかの事情がいきなり炸裂してる現場に出くわしてしまった場面です。ここでやっと、本部長がガムを噛む理由が明文化されます。長かったねー。ここで何を出すまいとしてるのかは、まあこのくだりからp222あたりまで読んでくれとしか。本編に必要かどうかはさておき、悪くない場面ですぜ。
そして実はここで、本部長がいるガチめの「ティータイム」の場面があります。しかも本部長みずからねだって、です。まあそれは、お茶飲みたかったというより、打ちのめされてるアニーをシャキッとさせ、息子が蹴ったお茶の準備を無駄にしたくなかった、という意図があったようではありますが。
ついでだからメニューも書いておきましょう。
「スポードの器と、冷やしたケーキとビスケットを盛った青いガラスの皿をのせた二階立ての小型テーブル」「透き通ったレモンのスライスを浮かべたカップ」(どちらもp194)…いいですねえ。
残念ながら「スコーン」は出てきません。ここでいう「ビスケット」が、ケンタッキーフライドチキンでいうところのそれであれば、スコーンと似たようなもんだといえなくもないですが、実はこの場面のちょっと前に「あの部長刑事(三月注:ウィギンズ部長刑事のこと)はつねにお茶とスコーンにありつこうとする努力を怠らないのだ(p193)」とあるので、スコーンと別物と考えた方がよさそうです。残念。
ケーキの種類は書いてませんが、ともかく本部長はケーキを最低2つむしゃむしゃやり「ビスケットに手をのばした。(同)」とあるので、ビスケットも食べてる可能性があります。もちろんお茶も飲んでます。
…あのー、さっきまで噛んでたガム、どこやったの?
実は、かんでるガムを出す場面は、ここまで見てきて一切出てきません。どこにやってるのかは謎です。トイレなどと同じように単に「描写してないだけ」と思われますが。
パブシリーズの叙情豊かな描写は実に結構なのですが、ときとして描写を優先しすぎて不整合だったり冗長だったりすることがままあります。「『レインボウズ・エンド』亭」あたりは、描写に舵をきりすぎてひたすら長くなっちゃった感があり、これでパブシリーズ翻訳打ち止めはさもありなん、なのは残念なところです。
その昔、パブシリーズの時代がいつで、作品と作品の間でどのくらい年月が経っているかを調べようとしたことがありますが結局、不整合があってとん挫しました。まあ私自身、創作で時空がねじれてることがゼロとは言えず(汗)、非難するつもりはありませんし、そういうものとして楽しむ方が面白く感じております。
そういう描写重視しすぎて整合性頓智気なシリーズだと思っていたけど、本部長のガムを噛む場面は、理由を明言する前から比較的キチンとした設定で書かれているっぽいな、ということです。初登場時から通してみて、ガム噛みの理由を当てはめて読んでみても、特に違和感がないというか。
単に説明してないだけで設定としてあったのかもしれませんが、これはちょっと驚きでした。本部長のコート問題も調べてみたら面白いかもしれません。
☆☆☆
マキャルヴィ本部長は優秀な警察官として書かれてはいます。ですが正直、職場では部下とうまくやれてるようには見えません。今までの引用場面だけ見ても察せられるかとは思います。昔、ミステリマガジン1994年6月号(!)に掲載されていたジョーン・コトカー「グライムズの魅力はキャラクターにあり」というコラムでも、現実世界では考えられない昇進の例の一つとしてマキャルヴィ本部長が挙げられているほどです(ちなみにもう一つの例はジュリー警視)。ちなみに、このコラムはそれがダメだと言ってるわけではなく、そこがいいんだよ! という方向の話で、これはこれで非常に面白い。平たく言うと「グライムズのキャラってリアルではないけど現実世界ではマイナスなことも許容される世界に生きてて最高」って感じでしょうか。グライムズ好きな人はおすすめ。
さて、先ほど絶賛した「『古き沈黙』亭のさても面妖」の本部長対ギリー部長刑事シーンの一節に、こんなのがあります。
(略)ジュリーはギリーの心がけんめいに駆けているのが見えるような気がした。コースの曲がり角でスプリントし、マキャルヴィのいじめを出し抜くことはできないとしても、少なくとも並んで走りたいと思っているのだ。(p259~260)
ギリー部長刑事は、本部長が信頼している10パーセントの人間のひとりです。部長刑事自身も本部長の能力の高さをわかっていて、でもそんな人でも、この人についていくのは大変なのです。
本部長自身は「いったいどうして人が彼と一緒に仕事がしにくいのか、彼には理解できなかった(ということはつまり、そんなことはどうでもいいと思っていた)。(「『古き沈黙』亭~p51)」だそう。もう全然スピード緩める気ないやんけ。
ですが。
もしかしたら、本部長のガム噛みは、そんな本部長なりのささやかな「並んで走りたい」という歩み寄りなことはないかしらね……と妄想して、この記事を終わりにしたく思います。
はー長かった、書くだけで2日かかっちゃった! 長すぎる!(ブーメラン)